薄いブログ 〜全てが薄い〜

だいたい酔った勢いで書いてる

公平な村

昔々ある村に、農家のおじいさんがいました。

 

農家のおじいさんが先祖代々受け継いできた畑はとても良質で、何を植えても、他の畑より大きくて健康な作物が育つ肥沃な畑でした。おじいさんはそんな畑を大切に扱い、毎日丁寧に手入れをしていました。

 

しかし他の農家達の中には、おじいさんの畑を疎ましく思う人もいました。ある日、そんな農家達は、おじいさんを囲んでこう言いました。

 

「あなたの畑は私たちの畑よりはるかに良質だ。それなのに私たちと同じ分の年貢しか納めないのは、不公平だ」

 

そうだそうだ、と他の農家達も同調しました。困ったおじいさんはこう返しました。

 

「確かに私の畑は少し特別なようですが、それは私の先祖が代々大切に手入れをしてきたからではありませんか。私も畑を大切にしてきましたし、その努力が実っているだけではありませんか」

 

それでも納得できない農家達は「では多数決をとりましょう」と宣言し、その場にいた20名ほどの農家が、おじいさんの年貢を増やす事に賛成しました。反対したのはおじいさん一人だけでした。

 

「わかりました。それでは私は皆様の2倍の年貢を納めましょう」

 

この提案に満足した農家達はゾロゾロと畑から離れていきました。

 

「あのじいさんが多く年貢を納めてくれたら、俺たちは少し楽をできるぞ」

「特別な畑を持っているんだ、それぐらいはやってくれなきゃな」

 

そんな声が聞こえてきて、おじいさんはいたたまれない気持ちになりました。畑の世話も手がつかなくなり、手入れが減った畑は少しずつ枯れ衰え、あれほど素晴らしかった畑からはロクな作物が育たなくなり、おじいさん手元には2倍に増えた年貢だけが残りました。

 

 

 

同じ村の別の家に、馬を育てるおじいさんが居ました。

 

そのおじいさんは馬が大好きで、暇さえあれば馬のことを考え、馬の本を読み、馬を育てる事に心血を注いでいました。そんな生活を20年も続けた結果、どんな駄馬も駿馬にしてしまう名伯楽になったのです。

 

おじいさんが育てた馬は他の馬より何倍も高値で売り買いされ、村の外からも馬を買いたい人が訪れ、村にとっては貴重な収入でした。おじいさんが育てた馬の評判はどんどん広まり、近々王様にも献上するのではないかと噂されていました。

 

そんな噂を聞いた周りの馬飼はおじいさんに嫉妬して、ある日、大勢でゾロゾロとおじいさんの馬舎に詰め寄りました。

 

「あなたが育てる馬はどういう訳だか質が高いから、あなたばかり注文が殺到して、他の馬飼達に不公平だ。良い馬が育ったら、何頭か融通してほしい」

 

それを聞いたおじいさんは激怒しました。

 

「何を言っているのです。私が休む間も惜しんで馬のことを学んでいる事は知っているはずです。あなた達が遊び、休んでいる間に私は馬のことを考えています。だから駿馬が育つのですよ」

 

しかし他の馬飼達は納得できないので「多数決をしましょう」と提案しました。その場にいた20人の馬飼が、おじいさんの駿馬を連れていく事に賛成しました。反対したのはおじいさんだけでした。

 

「分かりましたよ。好きなだけ持っていけばいいでしょう」

 

おじいさんはそう言って諦めざるを得ませんでした。馬飼達はズカズカと馬舎に立ち入り、おじいさんが大切に育てた馬を吟味し始めました。中でもおじいさんが特に大切に育てた3頭を引き連れて、馬飼達は馬舎を後にしました。

 

「良い馬は村で平等に分けないと、不公平だからな」

「これで村が潤う。また宴が開けるな」

 

自分がたくさん努力して育てた馬を奪われて、おじいさんは悲しくなりました。それ以降、どれだけ良い馬を育てても取り上げられてしまうので、おじいさんは馬を育てる気を無くしてしまいました。馬の質はみるみる低下し、王様に献上できるような馬がその村から生まれる事はありませんでした。

 

 

 

同じ村の別の家に、とても貧しい少年が暮らしていました。

 

少年は本が好きで、村長の蔵書室に夜な夜な忍び込んでは本を読み、たくさんのことを学び、将来は学者になって村の役に立ちたいと考えていました。

 

農業に興味を持った少年は、かつてその村で最も優秀な農家と噂されているおじいさんの元を訪ねて、農業に大切なことを教わろうと考えました。おじいさんは悲しい目で遠くを見つめると、こう言いました。

 

「良い畑を作る事に意味なんてないよ。周りには嫉妬され、年貢を増やされ、もっと働かされるだけだからね」

 

少年は馬にも興味がありました。王様にも馬を献上する予定だった名伯楽が村に居ると聞いて、そのおじいさんの元を訪ねました。馬について聞かれると、おじいさんは怒ってしまいました。

 

「良い馬の育て方?そんなこと考えて何になるんだ!どんなに大事に育てたって、奪われるんだ」

 

しまいには、おじいさんは泣き出してしまいました。少年は自宅に帰る道すがら「せっかく頑張った人が、どうして悲しい思いをしているんだろう」と不思議に思いました。

 

少年はその後もたくさんのことを学び、小さい頃からの夢だった学者になりました。村の作物を襲う疫病を解明し、馬を育てる学校を建てて、より良い村を作ろうと努力しました。こうした取り組みが王様にも認められて、都市からも様々な人が少年の教えを求めて、村を訪れるようになりました。

 

すると村人の中から、これを快く思わない人達が現れました。

 

「王様に認められたからって、生意気だ」

「家もどんどん大きくなっていくぞ。不公平だ」

 

不満を募らせた村人たちは結託して、少年の家を取り囲みました。

 

「あなたは立派な学者様で、たくさんのお金を稼いでいる。だから私たちの10倍は年貢を払わないと不公平だ」

 

少年は心底驚いて、目を見開きました。そして怒りに口を震わせながら、ゆっくり反論しました。

 

「私がどれほど貧しい家から生まれたか、皆様ご存知でしょう。どれだけ勉強して、頑張って今の地位を築いたのかも。最初からお金も畑も馬も持っているあなた方が私の半分でも努力していたなら、私より遥かに大きな家を建てられたことでしょう。

 

あなた方は努力をする代わりに嫉妬する。
自分を高める代わりに、他人を引き摺り下ろそうとする。
そんなことを繰り返していては村が衰退する一方ではありませんか

 

これに怒ったのは村人たちの方でした。

 

「偉そうなことを言いやがる。お前の方がたくさん稼いでいる。だからたくさん年貢を納める。これのどこがおかしい。どうしても納得できないと言うのなら、多数決をしよう」

 

多数決の結果は...言うまでもありませんね。村人たちは上気した顔を揃えて、こう言いながら少年の家を去りました。

 

「一人だけ抜け駆けしようなど、けしからん」

「村の中は公平でなければいけない」

 

村に愛想が尽きた少年は、すぐに都市に引っ越しました。

 

その後、村の作物は新しい疫病に晒されて壊滅しましたが、その理由を調べる人も、解決する人も居ません。ろくな馬が育たないものだから村の外からの収入は途絶え、村はどんどん痩せ細りました。

 

そんな中、誰かの声が響き渡りました。

 

「どうしてか、疫病の影響を受けずに育っている作物があるぞ」

「それは不公平だな」